肩を落としたウリドラがエスカレーターから降りてきた。 おかしいな、出発する時はあんなにはしゃいでいたのに、気のせいか小さくなったようにも見える。 ひと口も飲んでいないタプタプのドリンク。水びたしのポップコーン。とぼとぼと歩く足取り。それを眺めているうち、何故か「気をつけろ」と本能が囁きかけてくるのを僕は感じた。 決して気軽に「ねえねえ、どうだった?」なんて笑いかけてはいけない。もしもそんな事をしたならば、恐らく数日に渡り執拗な嫌がらせを受けてしまうだろう。 何かを言いかけたマリアーベルの唇をふさぎ、そして僕は声をかけた。「や、やあ、向こうにグッズ販売をしている所があってさ、一緒に見に行かない?」「……ふむ? ほう! まさかあの剣を売っておるのか!?」「実はそうなんだ。人気があるし急がないと完売しちゃうよ。あ、そっちのジュースと入れ物は僕が持つね」 どうやら上手いこと興味を引けたらしい。ぱっと彼女の顔は明るくなり、マリーと手を繋いで歩き出す。その後ろで、僕は人知れず安堵の息を吐いた。 無駄遣いはいけないことだ。それはよく分かっている。しかし今のは決して無駄などではなかった。恐らくは考えうる限りのなかで最善手だったろう。 ブイインと光剣を持つウリドラを「似合うね」「恰好良いね」「流石だね」と褒めちぎり、ようやく機嫌も直ってくれたよ。 フンスと得意げな鼻息を吐く様子に、僕は胸を撫で下ろした。 うん、面倒臭いねこの人は。 そのように初めての映画館は、騒々しくも楽しい思い出として二人の記憶に刻まれたようだ。